🎬 ひとことで言うと

知らない方がいいこともある。でも知ってしまった後でも、あの5年間が本物だったことは変わらない——そういう映画。
結論:『明け方の若者たち』は面白い?つまらない?
純愛として観るか不倫として観るかで、まるで違う映画になる一作。観終わったあとに「自分がどっち側の人間か」を突きつけてくる。
北村匠海と黒島結菜の空気感は本物だが、彼女の事情を知った上で観ると手放しで感情移入できない構造になっている
「私と飲んだ方が、楽しいかもよ?笑」——その16文字から始まった沼のような5年間を、「僕」の視点だけで描く青春映画だ。
結論から言うと、映画単体で観れば北村匠海の静かな演技と下北沢の空気感が心地よく刺さる良作だ。
なおスピンオフ『ある夜、彼女は明け方を想う』は現在配信終了しており視聴できないが、存在を知っておくだけでもこの映画の見え方が変わってくる。
▶ Prime Videoで視聴する※本ページはプロモーションを含みます。
基本情報
| 配信 | Amazon Prime Video ほか |
|---|---|
| 公開/放送開始 | 2021年12月31日(劇場公開) |
| 上映時間 | 116分 |
| ジャンル | 青春、ラブロマンス |
あらすじと作品の特徴(ネタバレなし)
明大前で開かれた退屈な飲み会。そこで出会った「彼女」(黒島結菜)に、一瞬で恋をした「僕」(北村匠海)。
下北沢のスズナリで観た舞台、高円寺で一人暮らしを始めた日、フジロックに対抗するために旅をした7月の終わり——世界が彼女で満たされていく一方で、社会人になった僕は「こんなはずじゃなかった人生」に打ちのめされていく。
夜明けまで飲み明かした時間と、親友の尚人(井上祐貴)と彼女だけが救いだったあの頃。しかし僕は知っていた——いつか、この時間に終わりが来ることを。
北村匠海、黒島結菜、井上祐貴ほか出演。監督:松本花奈(当時23歳)、脚本:小寺和久、原作:カツセマサヒコ「明け方の若者たち」(幻冬舎刊)。R-15指定。主題歌:マカロニえんぴつ「ハッピーエンドへの期待は」。
正直レビュー:ここが良かった・悪かった
良かった点:北村匠海×黒島結菜の空気感と、下北沢という舞台
- 北村匠海の「目に光のない」演技が役にはまっている夢と現実のギャップに打ちのめされながらも、彼女への感情だけは本物という「僕」の複雑さを、北村匠海は過剰な演技なしに体現している。泣かない、叫ばない——それでも画面から目が離せないのは、表情の奥に感情が透けて見えるからだ。
- 下北沢・高円寺という舞台が持つ「あの頃」の空気感ビレッジバンガード、スズナリ、王将——20代の若者が夜明けまで飲み明かす場所として、下北沢という舞台が完璧に機能している。この街を知っている人間には刺さるノスタルジーがあり、知らない人間にも「こういう時代があったんだ」という感覚が伝わってくる。
気になった点:彼女の内面が描かれないことへの消化不良
- 「僕」の視点だけで描かれるため、彼女の笑顔の意味がわからない彼女がなぜ「僕」に笑いかけるのか、何を考えているのか——本作はあえてそこを描かない。「僕」の目線でしか彼女を見られないため、彼女の行動が「誠実なのか不誠実なのか」が最後まで曖昧なまま終わる。これは設計として意図的だが、消化不良感も残る。
- R-15の生々しい演出が評価を分ける本作にはR-15指定にふさわしい非常に生々しい演出がある。それが「リアルさ」として機能する人には刺さるが、そこに抵抗がある人には観づらい場面になっている。
向いている人・向いていない人の特徴
向いている人
- 北村匠海・黒島結菜のファンで、二人の空気感をじっくり味わいたい人
- 20代の「こんなはずじゃなかった」という感覚に共感できる人
- 下北沢・高円寺のカルチャーに馴染みがある人
向いていない人
- 不倫・既婚者との恋愛描写に強い抵抗がある人
- 明確な起承転結と爽快な結末を求めている人
- R-15の生々しい演出が苦手な人
映画『明け方の若者たち』に原作はある?
原作はカツセマサヒコによる同名小説(幻冬舎刊)。人気ウェブライターのデビュー長編作品で、安達祐実・今泉力哉・尾崎世界観など各界の著名人から推薦の声が集まり、発売前から重版が決定した話題作だ。
映画版はおおむね原作の流れを踏襲しながらも、松本花奈監督の映像センスで「あの頃の東京」の空気感を丁寧に再現している。原作を先に読むと映画の余韻がより深くなる。
深掘り考察:映画『明け方の若者たち』彼女の笑顔は本物だったのか|スピンオフが変える結末の意味
「僕」はなぜ止まれなかったのか
彼女が既婚者であるという事実は、物語の後半になって回想シーンで明かされる。しかし「僕」はその事実を知りながらも止まれなかった。
出会う前に知っていたら止まっていたかもしれない。しかし出会ってしまってから知っても、もう遅い——これは弱さではなく、感情というものの根本的な性質だろう。恋愛は相手のことを知らなくても突っ走ることがある。知っていても、すでに走り出していたら止まれない。
「僕」の5年間は間違っていたかもしれない。しかしその感情が本物だったことは誰にも否定できない。
彼女の笑顔は本物だったのか——スピンオフが明かす答え
本作を「僕」の視点だけで観ると、彼女の笑顔は本物に見える。彼女もまた「僕」を好きだったのだと、そう信じることができる。本作はあえて彼女の内面を描かないことで、その「信じたい」という感情を守っている。
スピンオフ『ある夜、彼女は明け方を想う』(2022年1月配信・45分・黒島結菜×若葉竜也)は彼女の視点から描かれる。
夫(若葉竜也)との関係、「僕」との時間で何を感じていたのか——その答えが初めて語られる。
スピンオフのラストで彼女は言う。「過ちであったとしても、確かな光を見つけてしまった」と。これは単純な「ずるい女」の告白ではない。
彼女もまた苦しんでいた——ただその苦しさは「僕」には一切見えていなかった。そしてその見えなさこそが、この関係のいちばん危うい部分だった。
「知らない方がよかった」は本当か
スピンオフを観ると「彼女はあの時間を本物だと思っていた」という事実がわかる。それは「僕」にとって救いになるのか、それともさらなる残酷さになるのか。
本物の感情があったのに、それでも関係は終わった——「なかったことにはできないが、続けることもできなかった」という結末は、スピンオフを観ることで初めて完全に成立する。
本作単体では見えなかった彼女の痛みを知ることで、この映画の後味が「不倫の甘さ」から「二人分の喪失感」へと変わる。
だから「知らない方がよかった」は半分正しく、半分間違っている。知ることで失うものがある。
しかし知ることで初めて、彼女の笑顔に敬意を払えるようになる部分もある。知らなければ救われるが、知らないままではこの物語は完成しない。
「ハッピーエンドへの期待は」というタイトルの残酷さ
主題歌・マカロニえんぴつの「ハッピーエンドへの期待は」というタイトルは、この映画のすべてを一行で言い表している。ハッピーエンドを「期待する」という表現は、それが実現しないことを前提にしている。
「僕」はハッピーエンドを期待していた。彼女の笑顔を信じて、この関係がいつか形になると信じていた。
しかし彼女には最初から別の人生があった。その「期待」が音楽になっているという事実は、映画を観た後にこの曲を聴くと、また別の意味で刺さってくる。
尚人という存在——恋愛が壊せなかったもの
彼女のことで頭がいっぱいの「僕」を、ずっと横で見ていた親友・尚人(井上祐貴)の存在は、この映画のもう一本の柱だ。
何も言わない、説教しない、ただそこにいる——それが男の友情というものだろう。
本作が「不倫映画」として終わらない理由のひとつが、この尚人の存在にある。恋愛は終わる。しかし友情は残る——本作はそれを声高に語らない。だからこそ、じわりと心に残る。
総評:観るべきか迷っている方へ
映画『明け方の若者たち』は、純粋な青春ストーリーとして観るのが一番正しい向き合い方です。
彼女の笑顔が本物かどうかを考えず、「僕」の目線で恋愛と仕事と友情の5年間を追う——それだけで十分に味わいのある映画です。
スピンオフ『ある夜、彼女は明け方を想う』はAmazon Prime Videoで配信されていましたが、現在は配信終了しており視聴できない状態です。存在だけ知っておいて、いつか観られる機会があれば——という作品になっています。
本作品はAmazon Prime Videoで配信中。
プライム会員は追加料金なしで視聴可能です。
※配信状況は変更される場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。


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