🎬 ひとことで言うと

彼は殺人鬼か、それとも救世主か。介護の限界が生んだ悲しき怪物の物語

ただの殺人事件では終わらない。観る側にも「救いとは何か」を考えさせる映画だね。
結論:映画『ロストケア』は面白い?つまらない?
結論から言うと、『ロストケア』はかなり重い作品だ。介護に追い詰められた人間が「救い」のために選んだ行動を描きながら、観る側にも「それは本当に間違いなのか」と問いを突きつけてくる。
松山ケンイチと長澤まさみの演技は非常に良く、二人の対話を通して、それぞれが抱える「正義」がぶつかり合っていく。介護する側、される側、家族、そして社会――誰か一人だけを悪者にして終わらせられないところが、この映画の難しさでもある。
ただ、扱っているテーマがあまりにも重く、観ていて気持ちが軽くなるような作品ではない。介護や家族の問題を身近に感じている人ほど、かなり刺さる内容だと思う。
介護の現実と『救い』をめぐる問いが重く突き刺さる。気軽に観られる作品ではない
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基本情報
| 配信 | Amazon Prime Video ほか |
|---|---|
| 公開/放送開始 | 2023年3月24日(劇場公開) |
| 上映時間 | 114分 |
| ジャンル | サスペンス、ミステリー、社会派ドラマ |
あらすじと作品の特徴(ネタバレなし)
ある早朝、民家で高齢者と訪問介護センターの所長の遺体が発見される。捜査線上に浮かんだのは、介護家族から慕われていた献身的な介護士・斯波宗典(松山ケンイチ)。検事の大友秀美(長澤まさみ)は、斯波が勤務する訪問介護センターで高齢者の死亡率が異常に高いことを突き止める。
取り調べで斯波は、多くの高齢者を殺害したことを認める。しかし、彼は自分の行為を「殺人」ではなく「救い」だと主張する。なぜ斯波は高齢者を殺したのか。そして、彼が語る「救い」とは何なのか。大友は事件の真相を追う中で、介護を担う家族が抱える厳しい現実と向き合うことになる。

正直レビュー:ここが良かった・悪かった
良かった点:松山ケンイチの圧倒的な演技と静かな狂気
- 松山ケンイチの演技がいい穏やかな雰囲気の中に不気味さも感じさせる斯波を、松山ケンイチが見事に演じている。静かな演技なのに、自然と引き込まれる。
- 松山ケンイチと長澤まさみの掛け合いがいい二人の会話がこの映画の大きな見どころ。淡々としたやり取りだからこそ、それぞれの考え方の違いが伝わってくる。
- 介護の問題を考えさせられる介護する側が抱える苦しさをきれいごとだけで描かず、観る側にも考えさせる内容になっている。
気になった点:あまりにも突き抜けた「絶望」の深さ
- とにかく重い 介護をめぐる話なので、最初から最後までかなり重い。気軽に楽しめる作品ではなく、観るのに少し気力が必要。
- 観終わったあとも気持ちが重く残る 明るく楽しめるような場面は少なく、観終わったあともいろいろ考えさせられる。気分転換に映画を観たいときには向いていない。
向いている人・向いていない人の特徴
向いている人
- 松山ケンイチの演技をじっくり楽しみたい人
- 介護や家族の問題を扱った映画が好きな人
- 重いテーマの映画を観て、いろいろ考えるのが好きな人
向いていない人
- 重いテーマの映画が苦手な人
- 明るく楽しめる映画を観たい人
- 介護や家族の問題を扱った作品を観るのがつらい人
映画『ロストケア』と原作『ロスト・ケア』の違い
映画『ロストケア』には、葉真中顕の小説『ロスト・ケア』という原作がある。 ただし、映画は原作をそのまま映像化したものではなく、 斯波と大友の対決を中心に物語を組み直している。
原作と映画で大きく違うところ
| ポイント | 原作『ロスト・ケア』 | 映画『ロストケア』 |
|---|---|---|
| 01 犯人の見せ方 |
犯人を追っていくミステリー
誰が連続殺人を行っているのかを追いながら、 事件の全体像が明らかになっていく。 |
序盤から斯波が犯人だと分かる
犯人探しよりも、 「なぜ斯波は殺人を繰り返したのか」 という理由に焦点を置いている。 |
| 02 大友の設定 |
男性検事
原作では男性の検事として描かれている。 |
女性検事・大友秀美
長澤まさみ演じる女性検事に変更。 さらに大友自身も介護の問題を抱える人物として描かれ、 斯波との対立に人間ドラマとしての側面が加わっている。 |
| 03 物語の中心 |
事件そのものを追う物語
連続殺人事件を軸に、 斯波の行動や事件の背景が描かれていく。 |
斯波と大友の対話と対立
原作の要素を整理し、 「救い」「正義」「家族」について 斯波と大友が向き合う構成になっている。 |
同じ事件を描いていても、原作と映画では物語の見せ方が大きく異なる。 原作が事件の全体像を追うミステリーとして描かれているのに対し、 映画は斯波と大友という2人の対立を通して、事件の意味を考える作品になっている。
「なぜ斯波はこの行動を取ったのか」 「原作ではどう描かれているのか」が気になった人は、 小説版を読むことで、映画とは違った『ロスト・ケア』を楽しめる。
深掘り考察:聖者の貌をした殺人鬼が暴いた「安全地帯」の欺瞞
斯波宗典という「救世主」が生まれた背景
斯波が42人もの高齢者を殺害するに至った背景には、自身の父親を介護した経験がある。
認知症になった父を一人で介護するために仕事を辞め、生活は次第に困窮していく。生活保護を申請しても支援を受けられず、誰にも頼ることができない状況の中で、父から「殺してくれ」と頼まれる。
斯波は最初から人を殺したかったわけではない。自分自身が介護に追い詰められた経験があったからこそ、「このままでは介護する側もされる側も救われない」と考えるようになった。
そして父を手にかけた経験が、後の「自分は人を救っている」という考えにつながっていく。
ここが斯波という人物を考えるうえで重要なところだと思う。彼は自分の行為を悪だと考えているからこそ殺人を隠すのではなく、逆に「これは救いだ」と信じている。だからこそ、42人もの命を奪ったあとでも、自分は間違っていないと語ることができる。
ただ、その「救い」が本当に誰かを救っていたのか。そこに、この映画の大きな問いがある。
検事・大友が突きつけられた「正義」
大友は検事として、斯波の行為を「殺人」として追及する。これは当然のことだ。
しかし、斯波と向き合う中で、大友自身も母親の介護をめぐる問題を抱えていることが明らかになっていく。
大友は母親を施設に預けている一方、父親とは疎遠になっていた。そんな大友に対して斯波は、「家族を大切にする」という正論だけでは、介護する側の苦しさは解決できないと問いかける。
ここで浮かび上がるのが、「人を殺してはいけない」という大友の正義と、「介護する人間を追い詰めてはいけない」という斯波の考えの衝突だ。
もちろん、介護がどれだけ苦しくても殺人が許されるわけではない。
ただ、この映画は「殺人だから悪い」で終わらせず、そこに至るまでに何があったのかまで大友に突きつけてくる。
だからこそ大友は、斯波を単純な殺人犯として裁くだけではなく、自分自身が介護から目を背けてきたことや、「家族なら支えるべき」という考えについても向き合わされることになる。
結末考察:ラストシーンの涙と「折り鶴」に込められた真実
ラストで大友と斯波が流す涙には、それぞれ違う意味がある。
斯波は、自分が人を救っていると信じて多くの高齢者を殺してきた。しかし最後に見せる涙からは、自分の行為を完全に正当化できていたわけではなかったことが伝わってくる。
そして、折り鶴に込められた「俺の子どもとして生まれてきてくれてありがとう」という言葉が、斯波の父親との関係を思い起こさせる。
父親から「殺してくれ」と頼まれたことで、斯波は父を殺した。その経験が、後に「自分が苦しんでいる人を救う」という考えにつながっていった。
しかし、父を殺したことが本当に父親を救ったのかは、最後まで答えが出ない。
一方の大友も、事件を追う中で自分自身の家族や介護と向き合うことになる。
だから最後の涙は、単純に斯波の行為を肯定したものではない。殺人を正当化することもできない一方で、「介護する側も、介護される側も追い詰められている」という現実から目を背けることもできない。
『ロストケア』の結末は、斯波を単純な悪人として終わらせるのではなく、なぜ彼がそこまでの考えに至ったのかを残したまま終わる。そこに、この作品が描いた「救い」の難しさがある。
総評:観るべきか迷っている方へ
『ロストケア』は、介護する側とされる側の苦しさを描きながら、「救うとは何なのか」を問いかけてくる映画だ。斯波の行為を肯定することはできないが、なぜ彼がそこまでの考えに至ったのかを知ると、単純に悪人として片づけることもできない。重いテーマを扱った作品なので気軽には観られないが、観終わったあとも「人を救うとはどういうことなのか」という問いが残る作品だった。

「救う」って、いったい何なんだろうね。
本作はAmazon Prime Videoで配信中。
プライム会員は追加料金なしで視聴可能です。
※配信状況は変更される場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。


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